その姿をみたのは偶然だった。


 いつも逢うとき(というか、仕事の時だが)は飛び回っているイメージが多く、キースが普通に陸の上を歩いているのがなんだか不思議だ。
 おーい、と手を振りそうになって、踏みとどまる。
 キースが横断歩道を渡るおばあさんの荷物をひょいと持ち上げ、手を引いて歩き始めたからだ。

 「おーおー、根っからのいい人だねぇ。」

 日常とヒーローの時の裏表がまったくないキースに思わず顔が緩む。
 今ではもう1位はバーナビーになってしまったが、なぜこの男があんなにも市民からの支持を集めていたのかが手にとるようにわかる。
 ヒーローはやっぱり日常でもヒーローじゃないとな。
 親のような気持ちで微笑ましく人助けするキースを見ていたが、どんどんキースは話しかけては助け、助けては話しかけ、と繰り返していきなんだか心配になってくる。
 あー、あー、ばぁちゃんとさよならしたと思ったら今度はじいちゃんかよ。
 荷物持ったままどこいくんだよって、暴走した犬止めてるし!あ、今度は?ひったくりかよっ!捕まえちゃうし!!ああああ、今度はなんだ!?

   「ああ!もう!はらはらして見てられねぇ!」

   つかつかとキースに歩みより、木に引っかかっている風船をとろうとする男の肩に手をかける。

   「たいg、」

 「わ、バカ。」

 勢いでヒーロー名で呼びそうになったキースの口を慌てて塞ぐ。
 まったくもう、さっそうと出てって風船取って、カッコイイ俺!っていう登場が台無しだよ。

 「虎鉄くん、」

 「ここで待ってろ、」

 ぎゅん、と前進が淡い緑に包まれる。
 ぐ、と膝をまげ勢いよく跳び上がると軽々と木に絡まった風船の元に辿り着く。
 絡んだ紐を解き、ひょいと飛び降りる。

 「ほら、もう放すなよ。」

 「あ、ありがとう!おじちゃん!!」

 「お、おじちゃん・・・ははは・・・」

 どっかの誰かを思い出すな。なんだか懐かしー・・・。
 おじいさんに荷物を渡したキースが小走りでこちらへ近寄ってくる。

 「タイガーくん、先ほどはありがとう、そしてありがとう!」
 「おう、にしてもお前もいそがいしいなぁ」

 お礼だ、といってキースが買ってくれたアイスをなめながら公園のベンチに男ふたり虚しくかける。

 「忙しい?」

 「人助けだよ、人助け。あんなになるまでしてるのはお前くらいだろ。」

 「タイガーくんもしているだろう?」

 「してるけどよぉ、お前ほどはできねぇわ。」

 歳かなぁ、とぶつぶつ呟くと、不意に目の前が暗くなる。
 ふ、と顔を上げると、目の前にキースの顔があって思わず目をつぶる。
 そっと唇に柔らかいものがふれ、静かに離れていった。

 「お、まえなぁ・・・」

 人通りがなかったとはいえ、昼間の公園だぞ。と熱くなる耳を押さえながら睨み付けると存外柔らかい瞳がこちらを見つめていてさらに顔が熱くなる。

 「私はタイガーくんの真似をしているだけだよ」

 「俺のまね?」

 「そうだよ、」

 ふーん、と興味が無いフリをして優しい瞳から視線をそらす。
 アイスは下のコーンを湿らせながら暑さに負けて溶けていく。
 俺の真似をしているというその人助けはどんな人にも手がさしのべられる。
 その暖かい手は市民だけではなく、俺や他のヒーローも助けていることをわかっているのだろうか。

 「・・・まぶしいな」

 「日差しかい?今日も暑くなるそうだからね。」

 俺を夏の日差しからかばうように座る位置をさりげなく変えたキースの額にかかった金髪をそっとかきあげてやる。

 「・・・タイガーくん?」

 ちょっと不安そうな顔が幼くみえて、頬がゆるむ。

 「ほんっと、あっちぃな。」



                                                    END
あはははははいみふ。