常めづらしき
「さちたん マジ天使・・・」
カーテンを閉め切った薄暗い部屋でパソコンの画面をじっと見つめる。青年の視線の先には数人の、所謂美少女キャラがなんだかホッチキスのような形をした生き物と戦っていた。赤、青、緑・・・奇抜な髪色のキャラクターの中、一人だけ黒髪で地味な感じの少女がホッチキス星人(?)の鋭い針を全て抜き取り、仲間の勝利につなげていた。
「うおwwさちたんヤベッwwwwktkr!!」
鮮やかに立ち回る黒髪の少女から目を離さず、キーボードを叩くとすぐに動画に白い文字が流れる。動画の他の人の反応を見ながら、同じ内容の文を別窓で開いていた掲示板にも書き込む。するとそれに反応した他の人からパラパラとコメントが寄せられる。
『出たよwwサチヨ好きがwww』
『さちたんとかwww』
『いや、わかる!俺にはわかる!!』
『さちたんは俺の嫁』
『ちょwwおまいらwww』
『サチヨとかwサブOFサブwww』
広がっていく話題に青年の口元が緩む。
「いやいや、さちたんマジ天使!!なんでわかんないんだよ(´・ω・`)」
ぶつぶつ呟きながら掲示板にコメントを打ち続けていると、不意に部屋のドアが勢いよく開いた。・・・というか、開けられた。
「ちょっと、りょーすけ、あんたまなパソコンいじってんの?」
明るい向こうから入って来たのは幼なじみ兼恋人の菜花(なのか)。我が物顔でずかずかと近づいてくる。
「何か問題でも?」
冷たく突き放すように言うと、菜花は少しイライラしたように俺の肩に手をかけてくる。
「この、アニオタ」
「だからどーした」
彼女にとっては悪口なのだろう、ぼそりと呟いてくるが事実なので素直に肯定してやった。アニオタがどーした、言っておくが俺はそんなもんじゃねーぞ。ニコ厨だし、2chに入り浸ってるし、同人もコスプレだってしてる。お前が知ってる俺なんてしょせん0歳から中学入学までの随分お綺麗なオレだろうよ。・・・なーんて言ったら存外泣き虫のこいつはびーびー言うだろうから黙っておく俺、ちょうイケメン。優しすぎ。全俺が泣くわ。
「どーした、じゃない!ちょっと!!」
せっかく人が口をつぐんでやったのに、この女はその優しさを無駄にするつもりか?
両肩を掴まれ、がくがくと身体を揺すられる。
「ちょ、画面がみえない・・・」
「画面なんか見ないで!あ、ああああたしの方見て!!」
ちら、と一瞬目の隅で菜花の顔を捕らえると、おもしろいくらい真っ赤だった。
「やだよ、」
「な、なんで・・・?」
肩を掴んでいる手の力が、わずかに強くなる。
「さちたんが見たいから」
カチャカチャと未だにキーボードを叩きながら言うと、ぎゅうぎゅうと肩を握りしめてきた手の力がふっと抜ける。
「か、彼女のあたしより・・・さちえの方が、いいの・・・?」
肩から滑り落ちそうになった菜花の手をそっと握り、振り返る。さちたんが見えなく鳴るのは悲しいが、致し方ない。かわいそうな彼女の為だ。
「・・・バカだな、菜花の方が好きに決まってるだろ」
「りょーすけ・・・」
白く細い菜花の指に自分の指を絡めながら、黒目がちな瞳を見つめて呟くと、菜花の表情があからさまに明るくなり、むしろ輝きはじめそうだ。
「ま、可愛いのはさちたんだけどな」
「え"っ・・・」
最上級に優しく微笑みかけながら言うと、ぴしりと音を立てて菜花がフリーズする。ぺちぺちと頬を叩いても反応しない菜花をとりあえず抱き上げ、あぐらをかいた自分の膝のうえに座らせる。
「俺、ちょうリア充ぅ」
へにゃり、と力なくよりかかってくる低い体温を胸で受け止め、俺はまたキーボードでコメントを打ち始めた。
難波人 葦火焚く屋の 煤してあれど おのが妻こそ 常めづらしき
END
難波の人が葦火を焚く家のように煤けているが、俺の妻こそがいつも変わらず可愛い。
おりじなるのーまるかぷ、でした。
ちょっと補足。
良輔:りょーすけ
「菜花、可愛いよ・・・・さちたんの次に。」
冷静かつ利益重視の人
極度のアニオタと言うことを除けばあとは完璧だよ・・・頭良いし、きっと格好いい・・・。
菜花:なのか
実はむっちゃ可愛い子なんだ
りょーすけ大好き、りょーすけ以外に興味無し
りょーすけの為なら歌うしコスプレもするのに・・・!!
健気な子なんだよ、実は。